崖の上のポニョを観ました。感想を書きます。

さて、Nigitama の記念すべき「初はてダ」となります。
とりあえずこれを「Nigitamate Purpose」と名付けることにしました。
第一回目は崖の上のポニョを観てきた感想を書きたいと思います。
これは私個人の感想であって、他者の感想や考えを否定するものではなく、それぞれの人がそれぞれの感じ方をしていることを十分承知しています。


<注意>

ここから先は、物語の核心に触れる所謂「ネタバレ」が満載です。まだポニョを観ていない人は先を読む前にいろいろと考えてくださいね。
 
 

1.物語のテーマ

 

私はこの物語のテーマを「生命誕生」だと思います。
偉そうに言うことでもありません。この映画のコピーが「生まれてきてよかった」だからです。これから書いていきますが、この物語の中には生命誕生を思わせる演出が満載です。

 

2.ポニョ、地上へ

 

映画はポニョが家出をすることころから始まります。ポニョはクラゲにのって海面を目指すのです。最初に言っておきますが、私はこのポニョが「精子」だと思うのです。
ポニョの妹たちを思い出してください。あれも精子じゃないですか?そのなかでも力強いポニョが「選ばれた精子」なのです。ポニョが乗ったクラゲは水面に近づいていきます。

 
さて、ここで謎があります。皆さんも感じている疑問だと思いますが、次のシーンで海底に大量のゴミがありますよね?あれはなんでしょうか?はっきり覚えていませんが、冷蔵庫みたいな「ありえないゴミ」が海の底に沈んでいました。すごく印象的なのに、それ以外の所では触れていなかったように思います。これだけをみて、「環境問題に対するメッセージだ」と思いますか?地上はむしろ美しくのどかな町並みです。でも海面からすぐ下には信じられないほどのゴミがあるわけです。私はこれを「現代社会の内なる不安」ではないかと感じました。表面上は順風満帆でも、その内面にはどんよりとしたゴミがたまっている・・・

もしくは、このゴミは精子としてのポニョの苦難の旅路を表しているのかもしれません。ポニョはゴミの波にのまれそうになって、網に引っかかりながらも必死で脱出していましたね。おかげで瓶詰め状態になってしまうのですが。
 

3.ポニョ、宗介と出会う

 

崖の上に住んでいる宗介は、おもちゃの船をもって水際まで降りてきます。そこへ瓶詰め状態のポニョが流れ着きます。ここでポニョと宗介が出会うのです。宗介は最後の壁である瓶をたたき割ります。宗介の手が瓶の破片で切れたようで、血が出てきます。これをポニョがぽくっ舐めるわけです。これは受精の瞬間です。

それまでは単なる精子だったポニョですが、この受精の瞬間からポニョには異変が起き始めるのです。

 
さて、二つ目の謎です。ポニョを拾った宗介は、ポニョをバケツに入れて水道水で満たします。水道水ですよ?淡水ですよ?ポニョは海からやって来ました。フツーの魚だったら淡水では生きられません。はてさて、どうして水道水をバケツに入れるシーンがこんなにもわざとらしく描かれているのでしょうか。
 

4.幼稚園と「ひまわり」

 

宗介はポニョをバケツに入れ、リサのクルマに乗って出かけます。行き先は宗介の幼稚園とリサの職場「ひまわり」です。五歳児が幼稚園に行くのはわかりますが、どうしてリサは老人福祉施設のようなところで働いているのでしょうか?生命誕生の物語のなかでも、もっとも「生命誕生」から遠い存在です。これは、おばあちゃん達が走り回るラストシーンに導くためだったのでしょうか?

 
ここでも腑に落ちない謎があります。リサ、クルマ飛ばしすぎ!です。すごい飛ばします。危険運転です。そんなに飛ばさなくてもいいんじゃないでしょうか?もっとゆっくり走ってしかるべきだとは思いませんか。特に子供を乗せているのだから。不可解ですね。
 
もう一つ、宗介は自分の母親を「リサ」と呼んでいるんです。ニッポン人ならこれはしませんよ。いや、特に子供ならばなおさら。宗介は確かに子供ですが、生命誕生の一端を担う卵子たる宗介が「ねぇお母さん」という口調で自身の母性を薄くして、リサの母性を強調してしまわないようにということでしょうか・・・
 

ポニョを「ひまわり」に持ち込んだ宗介は、ポニョを三人のおばあさんに見せます。二人はポニョを「かわいい」と言い、一人 (トキさん) は「人面魚だ!津波が来る!」と言いました。この世界では、人によってポニョの外観が違って見えるようです。 
この後、宗介はポニョをフジモトに奪われてしまいます。

 
前述の通りですが、ポニョをかわいいと言う人とかわいくないと言う人がいるようです。この差もたいそう不可思議です。
 

5.ウバザメ号にて

 

ポニョを取り返したフジモト、なにやら海底で怪しげな研究 (?) をしているようです。太古の海を復活させるという大義名分があるようですが、要はフジモトさん、人工的に生命を作り出そうと躍起になっているようにも見えませんか。
さて、人間の血を舐めた (受精した) ポニョの体には異変が起き始めます。どんどん人間に近くなっていくのです。これはさすがのフジモトにも止められません。「あの方」を呼ばなくてはいけなくなるのです。

 
ポニョの本名は「ブリュンヒルデ」というそうですね。このネーミングがどこまで物語に影響しているのかはわかりませんが、「オーディンの意に背き、神性を奪われ、恐れを知らぬものと結ばれる」という点では共通しているようです (わたしはワルキューレとかよく知らんのですが、言うだけ言ってみました)。
 

ポニョはフジモトがため込んでいた生命エネルギー的な何かを手に入れます。そしてどうやら「何かのバランス」が崩れてしまったようです。海は荒れ狂い、トキさんの言う「津波」も発生してしまいます。

 

6.ポニョ、宗介と再会

 

波が生き物のようにうねり、その上を人間の姿になったポニョが走ります。とても面白いアニメーションでしたし、はらはらドキドキさせられました。崖の上で、ポニョは宗介と再会を果たします。姿が変わっていても、宗介はポニョだとわかったのです。
ポニョは灯を手にし、ガスを使って調理したものを口にします。そしてうまそうなラーメン。ポニョはどんどん人間に近づいていくのです。
リサはサンドイッチを作った後、「ひまわり」に戻ると言って、クルマに乗ってしまいます。

 

7.二人の冒険

 

一夜明けて、果たして海面は崖の上の家ギリギリまで迫っていました。宗介のおもちゃの船をポニョの魔法で大きくして、二人はリサを探しに冒険に出かけます。ロウソクを燃やして、船を進めます。
途中、あからさまに不自然な家族に出会います。夫婦と赤ん坊が小舟に乗っています。この不自然な赤ん坊の登場は、次のトンネルのシーンへのワンステップ (後述) です。
そしてまた、「赤ん坊はお母さんの母乳で育つこと」を知らない魚のポニョを強調するシーンでもあるのだと思います。ポニョはスープやサンドイッチを赤ん坊にあげようとしますが、「お母さんが代わりに飲んで、おっぱいをこの子にあげるね」(大意) と言われてその事実を知ったようでした。

さらに避難途中の人々にも出会います。そこで「ひまわりは大変なことになってるから助かったかなぁ」(大意) のようなつぶやきも聞こえてきます。

海の中を進んでいくと、リサのクルマがありました。だいぶ荒れた感じのクルマです。リサが元気でやっているとはあまり思えないような光景でした。

 
はたしてリサは生きているのでしょうか?
 

8.トンネルを抜けると

 

そして二人はトンネルの前にたどり着きます。トンネルの前でのカット、異常に長すぎませんか?観ていて違和感を覚えたのは私だけではないはずです。あれはズバリ産道です。トンネルが異世界 (死後の世界) との境であったり、産道や子宮を象徴するものだというのはかなりありがちなのかもしれませんが。

ポニョはここが嫌いだと発言します。それに対して宗介は「僕ここ来たことあるよ」と返します。それもそのはず、宗介は産道を通って生まれてきましたからね。二人で手をつなぎながらトンネルを奥へ進むと、ポニョはどんどん眠くなっていきます。手足がどうも人間らしいものではなくなっています。おもちゃの船も縮んでしまいます。いや、そればかりか元から大きかったはずの帽子まで小さくなるのです。ポニョはついに元の姿に戻ってしまいました。この産道、どうやら外から内へ進んでいるのです。つまり、トンネルを抜けるとそこは子宮だったというわけです。

誰の子宮か?といえば、それはグランマンマーレ、母なる海ということでしょう。

 

9.母なる海の腹の中

 

トンネルの向こうでは、昨日までは車いすだったひまわりのおばあちゃん達が走っています。リサが老人福祉施設で働いていた意味はこのシーンのためにあったのでしょうか。彼女たちのはしゃぎっぷりをよそに、フジモトはこれから起こることへの不安を抱えています。
五歳の子供が将来を誓わなければならないということを話していました。トンネルを抜けた宗介はフジモトに出会います。そこに突然登場するトキさん、「騙されちゃいけない」と言いいます。結局フジモトは強硬手段に出て、トキさんも宗介もポニョも、海の中に引きずりこまれるのです。

 
どうしてみんな走り回れるのでしょうか?トキさんはどうしてあんなところにいたのでしょうか?そしてなぜ「騙されちゃダメ」と言ったのでしょうか?いや、逆に考えればどうして他の人達はすでに水の中にいて走り回っていたのでしょうか?あのグランマンマーレの羊水は生を超越した空間なのでしょうか・・・?
 

10.生命誕生

 

グランマンマーレが宗介に言います。
この子はもともとお魚なの、それでもいい?」(大意)
宗介はこれに対して
お魚のポニョも、半魚人のポニョも、人間のポニョも好きだよ

この誓いの言葉をもって、二人は結ばれます。

満ち満ちた潮、すぐそこまで降りてきた月、堅い誓い、産道を抜けたところで生命は誕生するのです。

 
物語の最大の謎、というかこれだけは知りたいと思うことがあります。
ほかのみんな、死んでない?大丈夫?おばあちゃん達しんでないよね?